1.社長のボーナス
世間ではボーナスが出たとか出ないとかと騒いでいるが、ボーナスに縁がなくなってから何年になるのだろう。(独立創業日誌というタイトルだけど、ネタの時間軸と掲載の順番は一致しません。あしからず。)
ぴっかぴかの新人サラリーマン時代は、自分のボーナスがこれだけなら一体社長のボーナスはどんなものかしらと思っていた。
結論からいうと、社長にはボーナスはない。もう少し正確に言うと出してもいいけど出せない。この辺りの事情は独立してからわかった。
社長とは、世間一般の呼び方で法律上の役職ではない。銀行だと頭取などと呼ばれるが、親分でも組長でもよいのである。社長は取締役と呼ばれる身分で従業員と は法律上区別される。社長といへど、専用の個室や美人の秘書もなく、やっていることはまったく従業員時代のそれと変わらないのに区別されてしまう。
取締役の月々の報酬(給料と呼ばない!)は、従業員の給与と同じく会社から見て経費になる。ボーナスはどうかというと、従業員への支払い分は経費となるが取締役への支払い分、いわゆる役員賞与は経費とならない。
会社の業績がまずまずで300万円の利益が見込めそうであったとする。利益配分ということで、そこから200万円をボーナスに回す。もし従業員へ支給するなら会社の利益は100万円になってその金額から税金を払う(約50万円)。
ところが200万円を社長に支給するとその200万円は経費にならない。会社の利益は300万円のまま!でその金額から税金を払う(約150万円)。もちろん報酬を得た社長個人にも200万円に見合う所得税がかかる。(注1)
やっていることは従業員と何ら変わらないのに、社長であるというだけでボーナスを出すとびっくりするぐらい会社と社長個人が税金を払うことになるのだ。
小さな小さな会社では、法律上会社と社長個人は区別されても、実体は社長個人そのものである。会社が払う税金も結局は個人が払うようなもので、そんなに税金払うならボーナス出せんということになる。
社長の給料(月々の役員報酬)はボーナス分を見込んで高めに設定しておくしかない。社長は儲かったらその時もらうということができない。ちょっと悔しい。
(注1)
この例はちょっと極端なケース。役員賞与は税引き後の利益から払うことになるので税引き後の利益150万円から200万円ものボーナスを社長が取るには無理がある。
2.夢の運転資金4ヶ月
会社を運営していくためには、とにかく毎日のように現金が必要になる。以前にも書いたが毎月月末に「現金」が振り込まれる保証はどこにもないのである。
仕事を納めて検収OKをもらっても、帳簿に売上が立つだけで、それが「現金」に化けるのは数ヶ月後のことなのだ。帳簿上の価値では、給料も家賃も電気代も払えない。
対外的には会社がもっている価値(資産)と支払うべき金額を比べれば十分に払えますよといえるのだが、実際の支払いは現金しか使えない。そこで、金融機関に融資をお願いすることになる。
ちょっと余談になるが、小さな小さな会社では、会社と社長個人が一体とみなされ、社長は個人的に会社の借金の保証人にさせられる。融資の依頼では一体とみなされ、税金の計算では別物とみなされる。
リスクは負わされるは、税金は2重3重に持っていかれそうになるはで、小さな小さな会社の社長は結構踏んだり蹴ったりではないだろうか。
融資を申し込むと使途が問題になる。運転資金か設備投資かという区分である。金融機関を始め、ベンチャー企業向けの公的融資や補助金でも運転資金名目ではまず応じてもらえない。
何百万円もするような機械を導入するようなケースではOKになるのに、同じ金額がソフトの開発費用となると承認されないのだ。開発費用イコール人件費となり、運転資金とみなされてしまうのだ。
限りなく個人事業に近い開業当初、月末の口座残高として4ヶ月分の運転資金(現金)を維持したかった。平たく言うと自分の給料4回分と家賃や通信交通費のことである。ようやく自前で実現できたときは第3期の半ばに差し掛かっていた。
3.払った給料が会社の資産になる不思議
税務会計というものは時に非現実的な価値を生み出す。ソフト開発のために払った従業員(ここでは社長も従業員)の給料と同額の資産が会社に残ったとされるのだ。そんな馬鹿な!製造業なら従業員に払った給与は経費であって、その分会社の資産(現金)は減っていく。
もちろん会社の資産は増えるほうがいい。資産が増えるということは、利益が出ているからであり、税務署の立場からは税金を徴収できるし、株主の立場からは1株当たりの価値が高まる。取締役の立場からは成功報酬を期待できる。
でも、100万円の給与を払ったのに、同時に100万円の価値(開発したソフトウェアの対価)が発生して会社の資産がまったく減らないなんて変じゃない?ソ フトウェアの価値なんて、顧客に買ってもらえる瞬間までゼロだと言っていい。開発担当者に支払われた給料分の資産価値なんて詭弁もいいところだ。
経費として処理すべき項目を資産に置き換えて処理することは危険である。アメリカの通信会社ワールドコムが破綻したけど、あれは通信回線の敷設工事費など常識では経費となる支出を資産にしたからおかしくなったのだ。
ありもしない資産が会社に残っている(経費として減らない)ので利益が出ているように見える。株主と取締役が配当や報酬として会社の本当の資産をすっかり吸い取ってしまった。
企業会計としては、給料は資産を減らす経費とみなすのが自然である。ソフトハウスに対して給料分の資産を計上せよという税務会計は、税務署が粉飾決算を勧めているように思える。現金の代わりに何万行におよぶソースコードで税金を払えるなら(いわゆる現物納付)嬉しいかな?
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