パッチワークの風船を作ります。材料は端切れ、道具として針と糸が必要です。実際のモデリングでは、こ の風船が機械部品や金型になります。端切れは「トリム曲面」を用います。曲面はそのままでは4辺形なので、これを適当に3角形や5角形に切り取ります(ト リム)。端切れを並べて外周辺を縫い合わせていきます。本物の布はふにゃふにゃしてそれ自身形を保てませんが、ここで用いる端切れは、3次元空間の然るべ き位置に然るべき形で浮かんでおります。余談になりますが、この操作をCADシステムではステッチ(Stitch)、ソー(Sew)、ニット (Knit)、ジョイン(Join)、マージ(Merge)などと呼びます。ちくちく縫うか、ざっくざっく編むか意味深な表現です。
図4 トリム曲面でできたパッチを縫い合わせて風船にする
縫い合わせる「端切れの形」と「縫い合わせパターン」が大切です。実際のCADモデルでは、端 切れの形は曲面およびトリムするための輪郭線で定義されます。曲面、曲線、(点)を「幾何要素」と呼びます。縫い合わせパターンは、端切れどうしの隣接情 報です。この隣接関係を位相と呼び、データの単位として「位相要素」と呼びます。BREPは「幾何要素」と「位相要素」から構成されています。
CADでは、モデルをいろいろなデータ構造で表します。画面に浮かんでいる形状の裏で、コンピュータは 山のような数値、つまりデータを保持しています。形状データをどのように分類、整理して持つか、つまりデータ構造がCAD開発元のノウハウでした。現在で は、BREPという概念がほぼ落ち着き、次のような分類で体系立てることができると思います。用語について、CADごとによく似た表現が出てきますが、統 一されているものではありません。読者は自分のシステムの用語に翻訳する必要があります。
図5 位相要素と幾何要素の分類
「点」「曲線」「曲面」のことです。一般に曲線、曲面は「パラメトリック曲線」「パラメトリック曲面」が用いられます(後述)。直線、円弧など「解析曲線」、平面、円筒面、球面など「解析曲面」もあります。
端切れの隣接関係を記述する要素です。要素には、親子関係、親戚関係があり、縫い合わされていくに従って、より上位の要素になります。ここでは、最上位の要素から紹介します。
すべての端切れが縫い合わされて1枚の閉じた皮ができると、皮を境界として3次元空間からある体積を切り取ることができます。この体積を VOLUMEと呼びます。CADによってはSOLID(ソリッド)とかBODY(ボディ)と呼びます。大きな風船の中に、小さな風船を入れると物体の中に 泡(空洞)を定義することもできます。VOLUMEは閉じた皮を表す(複数の)SHELLを持ちます。
端切れが縫い合わされたもの。サッカーボールのように縫い合わされた皮が完全にある空間を切り取ると「閉じたSHELL」、そうでない状態なら「開いたSHELL」と呼びます。ソリッドモデルでは、外側に閉じたSHELLが1個必要です。
SHELLは縫い合わす端切れとして(複数の)FACEを持ちます。
縫い合わされる端切れです。FACEは位相要素で、形状を表す幾何要素として<(トリム)曲面>が対応します。FACEとトリム曲面が 1対1に対応するので、CADシステムによってはFACEとトリム曲面を同義に用いることがあります。曲面をトリムするための輪郭線として(複数 の)LOOPを持ちます。
FACEの輪郭を表す位相要素です。COEDGE(後述)を一筆書きに並べたものです。LOOPは(複数の)COEDGEを持ちます。
LOOPを構成する位相要素です。形状を表す幾何要素として<UV曲線>(後述)が対応します。1個のEDGEを持ちます。CADシス テムによっては、EdgeUsed(エッジユースト)と呼ぶこともあります。ここでは、LOOPはCOEDGEから構成されるものとしていますが、 LOOPが直接EDGEから構成されるシステムもあります。
COEDGEから参照される位相要素です。端切れの縫い目を表します。パッチワークの風船では、1個の縫い目に2個の端切れが集まります。位相要素 でいえば、縫い目を表す1個のEDGEは2つのCOEDGEから参照されることになります。対応する幾何要素は<曲線>です。EDGE両端に VERTEX(後述)を持ちます 。
パッチワークの風船では、縫い目が集中する場所に相当します。対応する幾何要素は<点>です。BREPとしてはなくてはならない要素ですが、CADによってはVERTEXを直接記述する要素がないものもあります。
図6 BREPデータの分解
BREPでは、位相要素を用いて「点」「曲線」「曲面」に適当に隣接情報を与えると、いろいろな形状を (数学的に)表現することができます。物体表面から針ねずみのように線が飛び出している形状もできますし、厚さ0の板を組み立てたような形状もできます。 これらの形状は、CGや有限要素法の解析モデルには有効なのですが、工業製品として製造できるものではありません。こういったモデルをノンマニホールドモ デルと呼びます。(これに対してサッカーボールのようなBREPモデルをマニホールドモデルと呼びます。)数学的に正しい説明ではありませんが、CADで は、「厚さゼロの部分をもつBREPモデル」イコール「ノンマニホールドモデル」と解釈して結構です。
図7 いろいろなノンマニホールドモデル